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横浜地方裁判所 昭和58年(ワ)551号 判決 1985年9月26日

四七一号事件原告

たまプラーザ住宅管理組合

右代表者理事長

田辺繁友

四七一号事件、五五一号事件原告、六四六号事件被告

手塚正治

五五一号事件原告

新井昭男

右同

磯山恒道

右同

伊藤嘉秋

右同

岩崎篤美

右同

岡野克己

右同

岡村正

右同

岡本均

右同

木村義信

右同

後藤房子

右同

志賀勇

右同

白石明夫

右同

高梨高

右同

根田宗治

右同

深堀征夫

右同

渡辺淑郎

右同

池澤功

右同

土屋俊雄

右同

渡辺喬

右同

岡本令子

一四五七号事件原告

村田光伸

右同

南條知二

以上二三名訴訟代理人弁護士

副島洋明

四七一号、五五一号、一四五七号事件被告、六四六号事件原告

二木玲二

主文

一  五五一号、一四五七号事件について

両事件被告二木玲二は五五一号事件原告新井昭男、同磯山恒道、同伊藤嘉秋、同岩崎篤美、同岡野克己、同岡村正、同岡本均、同木村義信、同後藤房子、同志賀勇、同白石明夫、同高梨高、同手塚正治、同根田宗治、同深堀征夫、同渡辺淑郎、同池澤功、同土屋俊雄、同渡辺喬、同岡本令子、一四五七号事件原告村田光伸、同南條知二それぞれに対し各金一万七二八一円及びこれに対する昭和五七年一二月二四日以降完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  四七一号事件について

1  同事件被告二木玲二は同事件原告たまプラーザ住宅管理組合に対し金二〇万円の支払をせよ。

2  同事件被告二木玲二は同事件原告手塚正治に対し金一〇万円の支払をせよ。

3  同事件原告らのその余の請求を棄却する。

三  六四六号事件について

同事件原告二木玲二の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、全費用を一〇分してその二を四七一号事件原告たまプラーザ住宅管理組合の、その一を同事件及び五五一号事件原告手塚正治の負担とし、その余を四七一号、五五一号、一四五七号事件被告、六四六号事件原告二木玲二の負担とする。

五  この判決は、主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(五五一号事件及び一四五七号事件について)

一  請求の趣旨

1 主文第一項と同旨。

2 訴訟費用は同事件被告二木玲二の負担とする。

3 仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(四七一号事件について)

一  請求の趣旨

1 同事件被告二木玲二は、同事件原告たまプラーザ住宅管理組合に対し昭和五八年七月以降各偶数月の末日限り一箇月五〇〇〇円の割合による金員の支払をせよ。

2 同被告は、同原告に対し六〇万円の支払をせよ。

3 同被告は、同事件原告手塚正治に対し四〇万円の支払をせよ。

4 訴訟費用は同被告の負担とする。

5 仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 同事件原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は同事件原告らの負担とする。

(六四六号事件について)

一  請求の趣旨

1 同事件被告手塚正治は、同事件原告二木玲二に対し同原告の要求があり次第本件仮処分によつて増加された工事部分を原状に回復せよ。

2 同被告は、同原告に対し本件仮処分に伴つて同被告が同原告に対して行つた名誉毀損について謝罪広告を行い、かつ、二万円の支払をせよ。

3 訴訟費用は同被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 同事件原告二木玲二の請求を棄却する。

2 訴訟費用は同原告の負担とする。

第二  当事者の主張

(五五一号事件及び一四五七号事件について)

一  請求原因

1(一) 別紙物件目録記載の建物(通称たまプラーザ住宅二街区二号棟、以下「本件建物」という)はその中に区分所有権の対象となる二四戸の専有部分を有し、昭和五四年ないし同五七年当時五五一号事件、一四五七号事件各原告ら二二名(以下「原告ら区分所有者」という)、同事件被告二木玲二(以下、全事件を通じて「被告二木」という)並びに訴外酒伊繊維工業株式会社(以下「訴外会社」という)が別紙専有部分所有者一覧表記載のとおりその専有部分の所有者であつた。

(二) 原告たまプラーザ住宅管理組合(以下、全事件を通じて「原告組合」という)は訴外住宅都市整備公団が昭和四三年三月横浜市緑区美しが丘地区に建設分譲した本件建物を含む棟数四七棟、総戸数一二五四戸の集合住宅(以下「たまプラーザ集合住宅」という)の区分所有者全員を組合員として、右集合住宅の共有物を管理し、かつ、共有物の使用に伴う住宅の所有者の共同利益を維持するために必要な協議及び業務を行うことを目的とする権利能力なき社団である。

2(一) 原告組合は本件建物について工事業者に請負わせて左記のとおりの補修工事をした。

(1) 昭和五四年度

階段室及び鉄部の塗装工事(以下「五四年度工事」という)

(2) 昭和五七年度

外壁、屋根、階段室及びバルコニーの防水塗装工事(以下「五七年度工事」という)

(二) 右補修工事に要した本件建物の区分所有者一人当りの費用は、五四年度工事分五万六二七一円、五七年度工事分三四万一二〇三円の合計三九万七四七四円である。

3(一) ところで、原告組合においては建物の区分所有等に関する法律(昭和五八年法律第五一号による改正前の法律、以下「建物区分所有法」という)第二三条に基づく規約として昭和四三年三月本件建物を含むたまプラーザ集合住宅の区分所有者全員の書面による合意によつてたまプラーザ住宅管理組合規約(以下「規約」という)を設定し、また、第二六条一項二号に基づきたまプラーザ住宅管理組合建築協定(以下「協定」という)を組合員全員の合意によつて設定した。

(二) そして、民法二五三条一項、建物区分所有法第一四条、規約第一五条三項及び協定第七条によれば、共用部分の管理若しくは保存行為に要した費用は、当該共用部分の各共有者が公平に負担すべきものである。

4 前記補修工事の対象である階段室、鉄部、外壁、屋根及びバルコニーは本件建物の共用部分であつて、本件建物の区分所有者全員の共有に属する。

5 そして、前記補修工事は共用部分の管理若しくは保存行為に該当する。

6 したがつて、被告二木は前記補修工事に要した区分所有者一人当りの費用合計三九万七四七四円を原告組合に支払うべき法律上の義務があるところ、その支払をしない。

7 そこで、やむを得ず、原告ら区分所有者及び訴外会社は原告組合に対し、被告二木が本来負担すべき右金員を平等の割合で(円以下の端数を切捨てると一人当り一万七二八一円ずつ)同人に代わつて立替払をした。

8 以上によれば、被告二木は法律上の原因なくして原告ら区分所有者の損失において自らの負担すべき費用の支出を免れ、同額の利得を得ていることになる。

よつて、原告ら区分所有者は被告二木に対し、不当利得返還請求権に基づき、一万七二八一円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五七年一二月二四日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の(一)及び(二)の各事実は認める。

2 同2の事実は否認する。

3(一) 同3の(一)の事実は認める。

(二) 同3の(二)は争う。

4 同4のうち、本件建物のバルコニーが共有部分ないし共有物であるとする点は否認ないし争う。この点に関する被告二木の主張は後記三の1のとおりである。

5 同5のうち、本件バルコニーの補修工事が共有物の管理若しくは保存行為に該たるとする点は否認ないし争う。仮にバルコニーが共有物であるとしても、本件バルコニーの補修工事は後記三の3のとおり共有物の変更に該たるというべきである。

6 同6のうち、被告二木が原告ら区分所有者主張の費用三九万七四七四円を支払つていないことを認め、その余は争う。

7 同7の事実は否認する。

8 同8は争う。

三  被告二木の主張

1(一) 本件建物のバルコニーは、共用部分ないし共有物ではなく、居室区分所有者の専有部分である。その理由は以下(1)ないし(6)に述べるとおりである。

(1) 規約第七条二項及び協定第七条一項は、一部の組合員の所有に係る共有部分(原告組合がいうところの専用管理共有物)として、建物の躯体、屋根等種々の共用部分ないし共有物を列挙しているが、この中にバルコニーは挙げられていない。

(2) 建物区分所有法第三条一項は「数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分」を共用部分と定めているが、バルコニーは居室という一個の専有部分にしか通じていないので、右共用部分の概念に含まれない。ここで「通ずる」という意味は普通人が常時歩行によつて出入りすることができるという常識的な意味であつて、非常時に隔壁を破つて通り抜けられるということまで意味するものではない。

(3) バルコニーは、物置、物干場、洗濯機置場等として居住者の利用に供される、居住者の生活にとつて欠くことのできない場所である。しかも、バルコニーはそれに接続した居室の居住者が専用的に使用する所であつて、右以外の者がそこを使用することはありえない。

(4) バルコニーの床部が二戸間に連続しており、その間に隔壁としての薄板が設置されていること、居住者が非常の際に隔壁を破つて避難することができることは認めるが、非常の際に居住者がバルコニーをつたつて避難するという事態の生ずる可能性は薄く(現にたまプラーザ集合住宅では今日までそのような事例は一例もない)、実際上バルコニーに避難路としての効用はあまりない。

仮に、バルコニーに避難路としての効用があるとしても、本来バルコニーは目かくし塀の機能を有する隔壁によつて外部と遮断され、専有部分としての外観を呈しているのであるから、非常時にバルコニーが避難路としての効用を有していることを理由としてこれを共用部分ないし共有物とみることはできない。

(5) バルコニーの躯体部分が共有物であることは、居室のそれが共有物であるにもかかわらず居室が専有部分があるとされているのと同じように、バコニーが共有物であることを根拠づけるものではない。

(6) 規約及び協定がバルコニーについて原告ら区分所有者主張の禁止、制限事項を定めていることは、私有地に対して建ぺい率等の規制が加えられていても私有地が共有地にならないのと同じように、バルコニーが共有物であることを基礎づけるものではない。

(二) 以上のとおり、バルコニーは専有部分であるから、原告組合はバルコニーの専有者の同意がない限りその補修工事を行うことはできないし、その意に反して補修工事を行つたとしてもそれに要した費用を専有者に請求することはできないところ、被告二木は原告組合によるバルコニーの補修工事に同意したことはない。そして、原告ら区分所有者の主張する補修費用のうちには、バルコニーの防水塗装工事分も含まれているから、被告二木は原告ら区分所有者の請求に応ずることはできない。

2 本件建物のバルコニーには、建築以来本件補修工事に至るまでの間、漏水等の瑕疵が生じたことはなかつたから、本件補修工事は全く不要であつた。

仮に、補修工事の必要なバルコニーがあつたとしても、安価で性能の実証された方法により随時該当部分を補修すれば足りるのであつて、本件補修工事のように、高価で性能の未知なエポキシ樹脂塗装防水工事を全バルコニー一斉に行う必要など全くない。

3 本件建物のバルコニーに施されたエポキシ樹脂塗装防水工事は、瑕疵のない所になされたもので、かつ、団地の外観を一変するものであるから、修繕というよりバルコニーの改装というべきものである。したがつて、仮に、バルコニーが共用部分ないし共有物だつたとしても、本件補修工事は共用部分ないし共有物の変更に該たると解すべきである。

したがつて、本件補修工事をなすにあたつては、区分所有者全員の同意が必要であるが、その同意はない。

四  被告二木の主張に対する認否

後記原告ら区分所有者の主張に反する部分はすべて争う。

五  被告二木の主張に対する認否

及び原告ら区分所有者の主張

1 本件建物のバルコニーは、居室区分所有者の専有部分ではなく、区分所有者全員の共同部分ないし共有物である。その理由は以下(一)ないし(四)のとおりである。

(一) 一棟の建物の壁体外部に突出、張出して築造されたバルコニーは、全体建物の一部をなす建物部分であり、建物区分所有法第二条四項の「専有部分以外の建物の部分」に該たる。

(二) 各戸のバルコニーは水平につながつており、一種の避難路としての役割を有している。

(三) バルコニーには規約及び協定上次のような禁止制限事項が付されている。

(1) バルコニーの改築は禁止されており(協定第一一条三号)、もし組合員がバルコニーを改築した場合には理由の如何を問わず、組合員をして一定の期間内に原形に復せしめることになつている(協定第一三条三号)。

(2) バルコニーの鉄部塗装は、団地内の調和を損わない範囲内において一棟同一色彩として、当該棟の組合員で協議して実施し、その費用は共同で負担することになつている(協定第七条二項)。

(3) バルコニーの空間部分の利用についても、共同生活の秩序を保持するうえから、バルコニーに土砂を搬入して花壇を造ること(規約第一八条二号)、バルコニーの外壁より外部に洗濯物等を出すこと(同条三号)は規制されている。

(四) バルコニーが居室と接しているため、バルコニーの壁等躯体に囲まれた空間は、規約等による制約の下で事実上居室区分所有者の専用的利用の下におかれている。しかしそのことはバルコニーの建物部分が専有部分であるとの根拠にはならない。右建物部分はあくまで区分所有者全員の共有物であり、そこについてなされた補修工事の費用は区分所有者全員が共同で負担すべきである。

2 たまプラーザ集合住宅においては、昭和四三年三月の訴外住宅都市整備公団からの分譲後、バルコニーの補修工事が一度も実施されておらず、そのためバルコニーのいたみがひどく組合員からその補修を強く求められていた。そこで、原告組合は、バルコニー面からの漏水及びそれに伴う建物の老朽化を防止し、併わせてその外観の美装を整えるためにバルコニーの防水塗装工事を実施したものである。よつて右工事が不要であつたとはいえないし、右防水塗装工事の工法も相当なものである。

3 建物区分所有法にいう共用部分の変更とは、共用部分の構造上、用途上の変更又は形質(形と性質)上の変更をいうのであつて、本件バルコニーの防水塗装工事は建物の老朽化、破損を防止し、住宅としての居住性、機能を維持、保全するためのものであるから、共用部分の変更には該たらない。

4 以上の主張に反する被告二木の主張はすべて争う。

六  原告ら区分所有者の主張に対する認否

前記被告二木の主張に反する部分はすべて争う。

(四七一号事件中の修繕費積立金請求について)

一  請求原因

1(一) 五五一号事件及び一四五七号事件の請求原因1の(二)と同じ。

(二) 被告二木は別紙専有部分所有者一覧表19記載のとおり本件建物四階一号室の区分所有者で、かつ、原告組合の組合員である。

2 五五一号事件及び一四五七事件の請求原因3の(一)と同じ。

3(一) 規約及び協定は、たまプラザ集合住宅が四七棟の独立した建物によつて構成されている関係上、右集合住宅の共用部分を、①全組合員が均等に共有する共有物(規約第七条一項、以下「均等管理共有物」という)と②一部の組合員が専用に共有する共有物(規約第七条二項及び協定第七条、以下「専用管理共有物」という)とに区分し、右いずれの共有物についても原告組合が管理することを定めている(規約第二条、第八条一号、第九条)。

(二) そして、規約は、組合員が、均等管理共有物の少額な修理費等については組合費として(規約第一五条一項)、均等管理共有物の多額な修理費等については修繕費積立金として(規約第一五条二項)、それぞれそれらを原告組合に納付すべきことを定めている。

(三) しかし、一部組合員の共有する専用管理共有物(例えば、建物の躯体部分、屋根、外周壁、階段室等)の補修に関しては、協定第七条で当該共有物の共有者が協議して実施し、その費用は同共有者が共同で負担する旨の総則的な規定が設けられているにとどまり、補修の実施に至る具体的手続、その補修費用の賦課、徴収方法等については、組合員の共同利益に係る基本的な事項として総会の議決事項とされたのみで(規約第二五条二項)、将来の運用に委ねられていた。

4 そこで、原告組合は、専用管理共有物の補修の実施に至る手続、その補修費用の賦課、徴収方法等に関して、昭和四五年九月二七日の第五回臨時総会の議決を得て営繕費積立金細則を制定し、その後昭和五二年一二月一一日の第一九回臨時総会の議決により右営繕費積立金細則を廃止し、新たにたまプラーザ住宅管理組合専用修繕費積立金実施細則(以下「実施細則」という)を制定し、さらに昭和五五年三月二三日の第二四回通常総会の議決を得て、右細則の改正を行つた。

5 実施細則第六条によれば、組合員は、専用管理共有物の修繕費積立金として月額五〇〇〇円を組合費の納付と同じ時期及び方法によつて原告組合に納付しなければならない旨定められており、組合費については、昭和四三年三月四日の創立総会において、偶数月の末日までに当月分及び翌月分の組合費を支払うべき旨の規則が議決されている。

6 しかるに、被告二木は、組合員であるにもかかわらず、昭和四五年以降右専用修繕費積立金の支払をせず、また、今後も支払わない旨主張している。

よつて、原告組合は被告二木に対し、規約及び実施細則に基づき、不払及び将来の専用修繕費積立金のうち、昭和五八年七月一日以降、偶数月ごと、その末日までに一箇月五〇〇〇円の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1、2の各事実及び同3(一)、(二)の各事実は認める。

2 同3(三)の事実は否認ないし争う。

3 同6の事実は認める。

三  被告二木の主張

1 実施細則の制定は、事実上規約及び協定の設定、変更に該たり、組合員全員の合意が必要であるところ、右合意がない。

2 実施細則に基づく専用管理共有物の修繕費積立金制度は掛け捨て制度ともいうべき不合理な制度である。

四  被告二木の主張に対する認否及び反論

すべて否認ないし争う。

実施細則は、専用管理共有物の大修繕工事に対処するために、その費用の共同負担の方法として、一時金方式による徴収ではなく月々の積立金制度を採用し、規約及び協定の趣旨を更に具体化したものにすぎない。また、右積立金制度は組合員に一時に多大な負担をかけず合理的である。

(四七一号事件中の原告組合の損害賠償請求について)

一  請求原因

1 修繕費積立金請求の請求原因1の(一)及び(二)と同じ。

2 被告二木は、昭和四三年三月の原告組合創立以来、原告組合の活動が被告二木の意に沿わないことから、原告組合及びその役員に対し種々の個人攻撃を加えたり、原告組合の管理業務を妨害したりするなどして、原告組合に敵対してきた。

3 そして、被告二木は、原告組合から過去幾度となく専用修繕費積立金制度の趣旨について説明を受け、その支払をなすよう説得され続けてきたにもかかわらず、右説得に応せず、昭和四五年以降今日に至るも原告組合に対し右専用修繕費積立金を全く支払わない。

4 また、被告二木は、原告組合の協力要請と説得にもかかわらず、原告組合が総会における承認及び被告二木を除く本件建物の区分所有者全員の賛成を得て昭和五七年度に実施した本件建物の外壁、屋根、階段室及びバルコニーの防水塗装工事に反対し、右工事を妨害するような言動をとつた。

5 さらに、被告二木は、右補修工事費用も支払わず、原告ら区分所有者に立替払を余儀なくさせた。

6 このような被告二木の一連の行動は集合住宅における共同生活のルールを破壊するもので民法七〇九条の不法行為に該たるというべきである。

7 そこで、原告組合及び原告ら区分所有者は、被告二木の右専用修繕費積立金不払、補修工事に対する妨害及び立替金不払の各問題の法的解決を原告ら訴訟代理人弁護士副島洋明(以下「副島弁護士」という)に委任し、被告二木に対し、それぞれ修繕費積立金請求の訴(本件四七一号事件)え、補修工事妨害禁止等仮処分申請(横浜地方裁判所昭和五七年(ヨ)第一五四九号)及び立替金請求の訴(本件五五一号事件)えを提起し、原告組合は副島弁護士に対し、右委任に基づき、着手金及び費用として三〇万円を支払い、その報酬として三〇万円の支払を約束し、同額の損害を被つた。

8 よつて、原告組合は被告二木に対し、不法行為に基づき損害賠償として六〇万円の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実は否認する。

3 同3の事実のうち、被告二木が専用修繕費積立金を支払つていないことを認め、その余は否認する。

4 同4ないし6及び7の各事実は否認する。

(四七一号事件中原告手塚正治の損害賠償請求について)

一  請求原因

1 原告手塚正治(以下「原告手塚」という)は、別紙専有部分所有者一覧表14記載のとおり本件建物三階一号室の区分所有者で、かつ、原告組合の組合員である。

2 被告二木は、原告手塚を被告として横浜地方裁判所(移送前神奈川簡易裁判所)に対し、六四六号事件の訴えを提起し、後記同事件の請求原因記載のような主張をし、同事件請求の趣旨記載のとおりの請求をしている。

3 しかし、右主張のような事実は全くないのみならず、原告手塚は本件建物の全組合員の意思に基づいてその共同利益を確保すべく努力してきたのであつて、被告二木の右訴え提起は反社会的とも評価しうる不当な訴訟である。

4 原告手塚は、右訴訟に応訴するため副島弁護士に右訴訟の追行を委任し、同委任に基づき同弁護士に対し着手金費用として二〇万円、報酬として二〇万円の支払を約した。

よつて、原告手塚は被告二木に対し四〇万円の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実を認め、同3及び4の事実を否認する。

(六四六号事件について)

請求原因

本件バルコニーは被告二木の専有部分であつて、原告組合による補修工事の対象となるものではなく、また、本件バルコニーには補修を要するような瑕疵は存在せず、補修の必要性はなかつたものである上、補修の工事はその工事方法において適切なものではなかつた。

しかるに、原告組合の理事長、実行委員らの煽動により、多数決をもつて右違法な工事を決定して施行した。

しかも、右工事の当日において、その事実がないにもかかわらず、被告二木が「横浜地方裁判所がなした、被告二木に対する仮処分決定が取消された」旨の虚偽の主張をした趣旨の文書を掲示し、原告組合理事長が拡声機を用いて団地内居住者に伝え、被告二木の名誉を毀損した。

第三  証拠<省略>

理由

第一五五一号事件及び一四五七号事件について

一請求原因1(一)、(二)及び同3(一)の各事実は当事者間に争いがなく、同2の各事実については、<証拠>を総合するとこれを認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

二そこで、請求原因4ないし6の主張及びこれに対する被告二木の主張について判断する。

1  まず、本件建物のバルコニー(以下「本件バルコニー」という)が、本件建物の共用部分に当たると解すべきか否かについて検討する。

<証拠>によると、本件バルコニーは、本件建物躯体南側面に、各階の床面とほぼ同じ高さで、棚状に空中にせり出した状態で、建物本体と接続した鉄筋で支えられ、建物躯体と一体をなしたコンクリートによつてその本体が構成されており、二戸分をもつて一体とし、各戸の境は薄い隔て板をもつて区画し、床面の一戸分の長さは八・八七メートル、幅員の広い部分で約一・五メートルで、南側外縁に、床面からほぼ腰高の位置まで鉄製の柵が、東西両側面は、同じ高さで、床部分及び本体と一体をなした構造で、コンクリート造の側壁が設けられているほかは外部空間との間には隔壁はなく、上部は、上階のバルコニーの床面が(最上階は屋根の庇部分が)、庇状をなしているものと認められる。

建物区分所有法においては、数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分が区分所有権の目的にならない建物の部分すなわち共用部分と定められているところ、本件バルコニーが非常の時において避難用通路に供されることが予定されているとしても、その主たる使用目的は、これに接続する各戸の使用者の専用に供されるべきもので、共用に供されるべき建物部分ということはできない。しかし、同法によると、右定めにより共用部分に含まれない建物の部分であつても、規約により共用部分とすることができる旨定められている(第三条)ところ、規約においては、建物の躯体、屋根、外周壁が管理共有物と定められていること、協定において、共有物の修理等として、建物の躯体、屋根、外周壁の修理は、当該棟の組合員で協議して実施し、その費用は共同で負担する旨、及び建物の外周壁、バルコニー等の鉄部塗装は、団地内の調和を損なわない範囲内において、一棟同一色彩として、当該棟の組合員で協議して実施し、その費用は共同で負担する旨定められていることの各事実は弁論の全趣旨に照らしこれを認めることができる。

そこで、右規約及び協定の定め、並びに前記認定のバルコニーの構造に基づいて判断すると次のとおり解せられる。

すなわち、規約及び協定においては、建物本体が全戸一体をなしているところから、その機能を維持し、外観を統一して美観を保持するため、建物本体を構成する、躯体、屋根、外周を共有物とし、組合が管理することと定めているものと解されるところ、本件バルコニーはその構造の点においても、また、機能、外観維持のための管理の点(本件バルコニーは、腰高程度の鉄柵、コンクリート側壁のほかには外部空間と隔てるものはなく、外周に限らず、その床面も風雨に曝される状態にあるばかりでなく、直下の階のバルコニーの庇をなしているのであつて、その維持管理は、建物全体の維持管理として行う必要性がある)においても建物躯体と区別すべき点はなく、規約、協定の右規定も、このような趣旨で本件バルコニーは、躯体に含まれるものとして定めていると解すべきである。このことは、被告二木が主張するように、本件バルコニーが居住者の専用的な使用に供せられていることによつて異なるものではない。

以上のとおりであるから、本件バルコニーは、規約の定めるところにより、共用物に属するものというべきである。

2  被告二木は、本件バルコニーに施工された補修工事は、全く不必要であつたか、そうでないとしても、工法、工費の点において不相当であつたから、被告二木においてその費用を負担する理由はない旨主張する。

よつて検討するに、共有者は、その持分に応じて管理の費用、共有物の負担を負うべきもの(民法二五三条一項、区分所有法一四条)であり、協定によると、建物の躯体、屋根、外周等の共有部分の修理費用は、当該建物の区分所有者が共同で負担する旨定められている(七条)と認められることは前判示のとおりであり、共有物の管理については、区分所有法によると、共有物を変更する場合のほかは、共有物の持分の過半数をもつて決すべきものと定められており(一三条)、協定において、共有者間で協議して決する旨定められていることは、弁論の全趣旨に照らして争いのないところである。

以上の規定及び協定に照らすと、共有物の補修につき、その必要性、範囲、程度、工事方法等については、共有者間の合理的な裁量による意思決定に委ねられているもので、その意思決定の手続きにおいて適正なもので、内容において著しく不合理なものでない限り、これに反対の共有者も拘束され、従わなければならないものというべきである。

これを本件建物の昭和五七年度工事についてみるに、<証拠>を総合すると次のように認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

本件建物は、昭和四三年中に建築された、鉄筋コンクリート造四階建の集合住宅であるところ、この種建物にあつては、建物の機能を維持し、建物本体に損傷を生じないようにするためには、一般に、本体の外壁及びバルコニー床面の補修は、一〇年ないし一五年毎に実施する必要があるとされているところから、原告組合では昭和五二年ごろから、将来必要になると予想される大規模な補修に備えて、保繕諮問委員会を設けて検討を始め、昭和五六年二月二二日及び同年五月六日同委員会に、実施すべき補修工事の範囲、内容、実施の要領などについて諮問した。原告組合では、右諮問と併行して、組合員一二五四戸に対して、建物の損傷の有無、部位等についてアンケートを実施し、これに対し九六五の回答があつたが、バルコニー(ベランダ)床のひび割れを指摘したものが四六三、同天井のひび割れを指摘したものが五四八等バルコニーの損傷を指摘したものが多数あつた。原告組合では前記諮問委員会の答申、アンケートの結果などに基づいて、補修工事実行委員会により工事業者と交渉をすすめ、昭和五七年三月二八日開催の第二八回通常総会において、訴外三木哲を工事管理者に選任することの承認を得て、同訴外人を工事管理者に選任した。

以上の経過の後、前記実行委員会により、補修工事の実施について、実施案が作成され、この実施案によつて補修工事を実施することについて、各棟毎の区分所有者による協議が行われた。本件建物については、昭和五七年六月一三日棟別協議が行われ、区分所有者二二名のうち一六名が出席し、三名が区分所有者であり評議委員である原告磯山に委任する旨の委任状を提出した。同協議においては、議決は四分の三以上の合意によつて決することを定めた上で意見を交換し、被告二木が、バルコニーの防水は必要ない、階段室の防水は、先に踊り場に施したのと同じ程度でよい、屋根防水工事は来年三、四月にし、今回は補修するだけでよいとの理由で、実行委員会の実施案に反対したが、その余の全員が実施案によつて補修工事を実施することに賛成したので、本件建物(二二号棟)は、実行委員会の実施案のとおり行うことに決定し、これに基づいて本件建物の工事が行われた。

以上のとおり認められこの認定に反する証拠はないところ右事実によつて判断すると、五七年度工事は、適正な手続によつて決定された、共有者間の合理的な意思に基づいて行われたものというべきである。

3  被告二木は、右工事中、本件バルコニーについて行われた工事は、修繕ではなく、本件建物の改装であつて、共有物の変更に当たる旨主張するが、本件バルコニーについて行われた工事が、外壁の塗装並びに床面の防水工事であることは、前記認定の事実によつて明らかなところであり、床面防水工事の結果外観が一変したものと認めるに足りる証拠はないから、その工法の如何にかかわらずこれをもつて共有物の変更ということはできない。他に、主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

してみると、五七年度工事中、本件バルコニーについて行われた工事は、共有物の維持、管理のための修理としてなされたものというべきであり、五七年度工事中その余の工事及び五四年度工事が本件建物の共有部分の維持、管理のためになされたものであることは弁論の全趣旨に照らし当事者間に争いがないものと認められる。

三被告二木が、五四年度工事、五七年度工事によつて生じた費用のうち区分所有者一人当たりの費用三九万七四七四円の支払をしない事実は当事者間に争いがない。そして<証拠>を総合すると原告ら区分所有者及び訴外会社において原告組合に対しそれぞれ一万七二八一円を立替えて支払つた事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

四以上のとおりであるとすると、不当利得返還請求権に基づき一万七二八一円と、これに対する訴状送達の翌日(本件記録によると昭和五七年一二月二四日と認められる)以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告ら区分所有者の請求は理由がある。

第二四七一号事件中修繕費積立金請求について

一請求原因1、2の各事実は当事者間に争いがない。

二<証拠>によると、原告組合においては、昭和四五年ころ、将来専用管理共有物について、大規模な修理、補修工事を必要とすることとなり、その際は、組合員各個人が負担すべき工事費が相当に高額になることが予想されるところから、そのための費用を積立てておく必要があると考えるに至り、同年九月二七日の第五回臨時総会において、一戸当たり月額四〇〇円の積み立てを内容とする営繕費積立金細則を提案し、多数の賛成を得てこれを制定し、その後積立金額を月額六〇〇円、一二〇〇円に増額し、昭和五二年一二月一一日の第一九回臨時総会において、前記積立金細則に代えて実施細則を提案して前同様可決され、昭和五五年三月二三日の第二四回通常総会において積立金額を月額五〇〇〇円に改めたこと、被告二木は、右積立金制度に反対し、その納付を拒んでいることの各事実を認めることができる。

三被告二木は、積立金の納付義務を定めた、前記積立金細則及び実施細則は、規約、協定の設定、変更に当たり、組合員全員の合意によることを要するところ、これを欠くから無効である旨主張するので検討する。

規約の存在、内容については弁論の全趣旨に照らして争いがないところ、規約においては、組合が管理する共有物(管理共有物)を、共有土地、管理集会所、外灯、遊戯施設等全組合員の共有に属する物(均等管理共有物)と、建物躯体等各棟の区分所有者の共有に属する物(専用管理共有物)に区分し、均等管理共有物の多額な修理、改造、施設、除却等に要する費用については、修繕積立金として各組合員において、所有する住宅の戸数により按分して積み立てるべきことを定めている(七条、一五条)が、専用管理共有物の修繕費については、規約においては何ら定めがなく、協定(その存在、内容については弁論の全趣旨に照らし当事者間に争いがない)において、当該棟の組合員の協議によつて修理を実施し、その費用は共同で負担する旨定めている(七条)ことが認められる。

そこで、規約及び協定の右各規定について考えるに、規約及び協定においては、管理共有物については、組合員全体の費用負担において修理、改善の工事が行われるところから、組合に対する積立金の支払義務を定めたが、専用管理共有物の修理については、各棟の共有者間の協議によつて実施すべき旨定められたところから、その費用負担も、当該共有者の共同負担とするに止めたものと解される。

そうであるとすると、規約及び協定においては、専用管理共有物の修理費用については、積立金を徴することは全く定めていないし、これを予定していないものであつて、細則によつてこれを定めたことは、新たに組合員に義務を課するものであつて、細則の方式をとつてはいるが、その内容は規約の改正(設定、変更)というべきである。

規約において、規約の設定、変更又は廃止は組合員全員の合意によると定められている(二六条)ところ、被告二木において右細則制定に反対したことは弁論の全趣旨に照らして明らかなところである。

してみると、実施細則は、少なくとも、これに反対した被告二木に対してはその効力を持たないものというのほかない。

原告組合は、実施細則は専用管理共有物の修繕費の共同負担について徴収の方式を具体化したもので、規約、協定の趣旨を具体化したにすぎない旨主張するが、そのように解することができないことは既に判示したところによつて明らかである。

四以上のとおりであるから、原告組合の請求は理由がない。

第三四七一号事件中原告組合損害賠償請求について

一被告二木が修繕費積立金の支払をしないことは当事者間に争いがないが、右支払の拒否が不法行為に当たらないことは、既に判示したとおりである。

二被告二木が、五四年度工事、五七年度工事の工事費の支払を拒んでいる事実は当事者間に争いがない。

しかしながら、工事費立替金の支払を求めて訴え(五五一号事件)を提起したのは、同事件の原告である原告ら区分所有者であつて、原告組合でないことは弁論の全趣旨に照らして明らかなことであり、そうであるとすれば、右立替金請求の訴え提起により、原告組合に損害が生じたものと認める余地はない。

三被告二木が、五七年度工事の施工を拒否していた事実及びその経緯、並びにその拒否が理由のないものと解すべきことは、五五一号、一四五七号事件について判示したとおりである。

四証人田辺繁友、同三木哲の各証言、原告手塚正治本人尋問の結果と<証拠>によると、原告組合は五七年度工事を実施しようとしたが、これに反対の被告二木は、同被告の住戸の南側に付設されたバルコニーの床面上に、架台、植木鉢、火鉢等を置いて、原告組合の撤去の求めに応じなかつたこと、原告組合としては、施工業者から、工事は一括して全工事を実施することが、工事の完全を期す上から必要であり、バルコニーの防水工事を一部残すのであれば、本件建物の工事結果について保証できない旨の申し入れがあり、本件建物の被告二木を除く区分所有者も、被告二木の住戸に付設されたバルコニーの防水工事を含めて全工事の施工を強く希望したので、その法律上の手続を、原告ら区分所有者とともに、副島弁護士に依頼し、同弁護士は、原告組合及び原告ら区分所有者を申立債権者とし、被告二木を同債務者として、横浜地方裁判所に、右バルコニーにつき、工事の妨害となる物の撤去、工事妨害の禁止等を求める趣旨の仮処分を申請し、同年一一月三〇日同裁判所によりその旨の仮処分決定を得て、同一二月三日同決定を執行して右バルコニーの工事を行つたこと、原告組合は、右仮処分の申請手続のほか、本件四七一号、五五一号事件の訴えの提起及びその追行を同弁護士に依頼し、これらの報酬として、依頼とともに三〇万円を支払い、成功報酬として更に三〇万円を支払うことを約束したことの各事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

五本件建物のように、多数の区分所有者によつて構成されている集合建物で、かつ、多数の同種建物からなるいわゆる住宅団地において、区分所有者によつて管理組合を結成して、統一的で、建物等の能率的な管理、保存を企図している場合においては、これを構成している組合員は、組合の意思決定の過程においてその意見を表明し、主張することが保証されることはもとより当然のことであるが、一旦、適正な手続に従つて組合の意思が決定され、それが著しく不合理なものと認められない限り、その後においてなおも自己の意見に固執し、組合の、決定された意思に基づく業務の執行を妨げるがごときことは、到底許されないところであつて、被告二木が、原告組合のバルコニー防水工事を妨害した前記行為は、原告組合に対する不法行為を構成するものというべきである。

そして、前記認定の事情に照らすと、原告組合が工事を遂行するために、副島弁護士に依頼して前記仮処分を申請し、その執行をなしたのは相当な措置と認められるから、そのために、組合が同弁護士に支払い、支払うことを約束した報酬は、相当な額の範囲内において、被告二木の不法行為によつて被つた損害となるというべきところ、その額は、原告組合が支払つた前記認定の金額、その依頼の内容、前記仮処分事件の内容に照らし、二〇万円をもつて相当とすべきである。

六以上のとおりであるから、原告組合の右損害賠償請求は、仮処分に関する支出として損害と認められる、二〇万円の支払を求める限度で理由があり、その余は失当である。

第四六四六号事件について

一バルコニーに施工された工事部分の原状回復を求める請求については、原告組合が行つた工事につき、原告手塚にその原状回復を求めることができるものと認めるに足りる理由について、何らの主張も、立証もないからその請求は失当である。

二謝罪広告及び慰謝料の支払を求める点については、弁論の全趣旨に照らしその請求原因事実については原告手塚の争つていると認められるところ、これを認めるに足りる証拠はない。

よつて、同請求もまた理由がない。

三以上のとおりであるから、被告二木の請求はいずれも失当として棄却するのほかない。

第五四七一号事件中原告手塚の請求について

一同請求の請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、同2の事実は弁論の全趣旨に照らし明らかである。

二被告二木の、六四六号事件の請求が理由がないものとして棄却すべきものであることは、同事件の理由において判示したとおりである。

三特定の権利を有すると信ずる者が、その権利を実現するために訴えを提起することは当然の権利であり、たとえその結果権利の存在が認められなかつたとしても、そのことのみによつて、直ちに訴えの提起が不法行為になるものではない。

しかし、訴えの提起により相手方は応訴を強いられ、それに伴つて相応の犠牲を負うことになるのであるから、訴えの提起に当たつては、その請求が、主張するところにおいて明らかに失当とみられるものではなく、その権利の実現のために真摯に訴訟を追行する意思でなされるべきものであり、そうでないときは、その訴えの提起は不法行為に当たるというべきである。

四六四六号事件における被告二木の請求のうち、原状回復を求める請求が、主張自体において理由がないものであることは、同事件における理由中に判示したとおりであり、同請求は、本来原告手塚に対して請求し得べき請求ではなく、このことは容易に判断し得るところというべきである。

また、同事件中、謝罪広告及び慰謝料の支払を求める部分については、被告二木はその原因事実について立証すべき証拠を何ら提出しようとせず、原告手塚の反対尋問においても、右事実については何ら触れることなく、これと何ら関連のない、原告手塚の行為を非難する趣旨の尋問をしたに過ぎないのであつて、右請求について真摯に訴訟を追行する意思があつたものとは到底認められない。

してみると、被告二木の六四六号事件の訴えの提起は、原告手塚に対する不法行為に当たり、その結果同原告に生じた損害につき損害賠償の義務があるというべきである。

五原告手塚正治本人尋問の結果によると、同原告は、被告二木の右事件の訴え提起に対し、副島弁護士に委任して応訴し、同弁護士に対し報酬として四〇万円を支払つたものと認められる。

しかし、被告二木の右事件における請求及び主張の内容、その後の訴訟活動等、事案の内容に照らし、原告手塚の支払つた右報酬のうち、一〇万円をもつて被告二木の不法行為によつて被つた損害と認めるのが相当である。

六よつて、原告手塚の右請求は一〇万円の限度で認容し、その余はこれを棄却する。

第六以上により、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

なお、仮執行宣言の申立については、立替金の支払を命ずる部分(主文第一項)についてのみ相当と認めてこれを付し、その余の部分は相当でないから付さないものとする。

(裁判長裁判官川上正俊 裁判官上原裕之 裁判官荒木弘之は転任につき署名、捺印することができない。裁判長裁判官川上正俊)

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